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『パリよ、永遠に』を観ました。2015.03.21 Saturday
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映画『パリよ、永遠に』を観てきました。
近頃めずらしいヨーロッパ映画で、興味深く見ごたえある作品です。
同じく1944年のパリ解放をテーマとした大作『パリは燃えているか』と、つい見比べてしまいますが、こちらも上映時間は短いながら、なかなか心に残るシネマでした。
上記の大作と大きく違うのは、解放前夜の長い夜に対峙した二人の人物に焦点を当てた室内劇となっていることでしょう。話のほとんどが、ドイツ占領軍司令部のある高級ホテルのオテル・ムーリス上階にて紡がれますから。
パリを破壊から守るべく(中立国の)スウェーデン総領事ラウル・ノルドリンク(アンドレ・デュソリエ)が、ナポレオン3世が作った秘密通路を利用して、ドイツ占領軍パリ防衛司令官ディートリヒ・フォン・コルティッツ(ニエル・アレストリュプ)の部屋に現れ、そこで丁々発止の駆け引きを展開するという物語です。
軍人としてヒトラーの総統命令に従いパリを破壊する立場ながらも、深い苦悩と迷いが交錯するコルティッツ将軍の内面を察知して、巧みにな説得をはじめるノルドリンク。彼はスウェーデン人ですが、パリで生まれ育ったため、人一倍この街を愛しています。
監督はフォルカー・シュレンドルフ。『ブリキの太鼓』などの作品で知られる彼もまたドイツ人ですがフランスで映画芸術を学び、独仏両国の和解を念頭に置く人物。
コルティッツ役のアレストリュプはフランス人俳優なのですが、いささか見た目が老けている(実際のコルティッツは当時50歳くらい)ことはともかく、ドイツ軍人らしいドイツ語と交渉時のフランス語セリフをたくみに使い分けて不自然さを感じさせません。
原題は『Diplomatie』となっており、外交上の交渉ですね。しかし、国家間の理詰めじみたものだけではなく、人間の内面に深く切り込んだ言葉のやりとりに入っていき、コルティッツが理不尽な命令に憂慮しながらも、国へ残してきた家族がジッペンハフト(親族連座法)という恐ろしい監視体制の犠牲になったらと思うと、とうてい命令違反など出来ないと苦悩していたことを知ったノルドリンクは、自分が君の家族を亡命させて救う、だから君も命令を実行しないでくれと搦め手から攻めにかかります。
映画の冒頭には、ベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章にのせて、同じ1944年8月のはじめに、市民軍の蜂起があったワルシャワがナチスドイツ軍の報復を受け、完膚なきまでに破壊されていく悲惨な映像がえんえんと流れます。
そしてセーヌ川にかかる橋のすべて、さらにオペラ座やルーブル美術館、エッフェル塔にアンバリッド(廃兵院と呼ばれ、ナポレオンの眠る場所)など、あらゆる名所や史跡にまで爆薬がセットされるという恐怖の計画が進行していたのでした。
が、結果は皆さんご存じのとおり。ついにコルティッツは爆破命令を出さず、パリは救われました。自由フランス軍の第2機甲師団を先頭に到着した連合軍は、数日前からパリの各地で蜂起していたレジスタンス集団と協力して戦い、市内に駐留するドイツ軍将兵の多くが降伏。そのなかにはコルティッツ司令官の姿も。それを感慨をもって見守りながら、ノルドリンク総領事は街角に立ちます。
(戦闘シーンは当時の記録映像で流れる短いものです。また余談のメカ趣味話で恐縮ですが、その記録フィルムにドイツ軍のパンター戦車と捕獲使用されるフランス製ソミュア35や同じくオチキス35、突入した連合軍のM10駆逐戦車やM5軽戦車などがちょっと登場するのみ。映画そのものの中には、解放直後の大通りにM4シャーマン戦車の鋳造シャーシタイプとM3ハーフトラックが見えました)
命令撤回の早朝、将軍と総領事がホテルの屋上にあがって見渡した陽光に浮びあがるパリの一大パノラマというべき美しい風景は、やはり感動的でした。
もともとが戯曲を脚色して映画化した作品だけに、密室の舞台劇となって退屈する方もあろうかと思います。でも、この時代やパリの歴史などに興味をお持ちの方はご覧になって損のないシネマでは。繰り返しですが、最近かなり見ないヨーロッパ映画という点でもうれしいものでした。願わくは、もう少し上映劇場が多いと良いですね。私も住んでいる岐阜市では見れず、名古屋市に遠征(?)しましたが、その価値は充分にある作品でした。
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スポンサーサイト2016.03.17 Thursday
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